東京地方裁判所 昭和39年(ワ)3959号 判決 1967年5月09日
理由
一、原告が本件土地を所有していること、本件土地に原告主張の本件各登記がなされていること、並びに原告は訴外会社が設立された昭和三八年四月八日当時より同年一二月二〇日まで訴外会社の代表取締役であつたが、右同日宇山らが取締役に就任し、柴田が原告に代つて代表取締役になつたことは当事者間に争がない。
二、さて、被告と訴外会社との間の金銭消費貸借について判断するに、《証拠》によれば、被告は訴外会社に対し昭和三八年一一月頃より手形、小切手割引等の方法により金員を貸付けていたこと、前記のとおり原告が訴外会社の代表取締役を退任した後は、宇山らが引継ぎ被告から貸付を受けたことが認められ、右証言及び本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない。《証拠》を総合すると被告の訴外会社に対する債権額は昭和三九年三月四日前記登記の当時同年二月一五日現在の貸金残額及び被告の登記手数料立替金債権を合せ合計金八二二、四四〇円であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
三、被告は原告が訴外会社の被告に対して負担する前記債務を連帯保証した旨主張し、被告本人尋問の結果中には右主張に符合する部分が存するが、原告本人尋問の結果に照して措信し難く、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。
四、《証拠》を総合すると、次の事実が認められる。
宇山らは訴外会社の資金ぐりのため被告から金融をうけていたが、昭和三九年一月頃から被告に手形の書替を求めることが多くなつたため、被告から今後貸増しをしたり、手形の書替をするためにはその裏付(担保)を提供するよう求められたので、宇山らは原告に援助を求めた結果、原告は本件土地を担保に提供し、これによつて訴外会社が他から金融を受け、その一部は原告自らも使い、その余は訴外会社に使わせてその業績を挙げさせ、できればこれまで原告が訴外会社に投下した資本の回収を図ることを考えた。そこで、原告は宇山らの要請に応ずることとして、同年一月中頃自ら被告、宇山らを案内して本件土地の見分をさせ、宇山らに本件土地の権利証、白紙委任状と印鑑証明書各二通、公図一通を交付し、訴外会社が被告から金員を借受けるについて原告所有の本件土地を担保に供することを承諾し、宇山らが原告の代理人として右担保を設定することの権限を賦与した。
宇山らは昭和三九年二月初め頃右代理権に基き被告に対し右書類を交付し、訴外会社の被告に対するこれまでの債務及び将来生ずる債務のため本件土地を担保として抵当権を設定し、これに関する登記手続については被告に一任した。その結果、被告は訴外会社との取引を継続し、同年三月五日宇山らから預つた右書類を使用して前記二の債権額により前記各登記を了した。右各登記のうち、停止条件付代物弁済契約による所有権移転仮登記及び賃借権設定仮登記については、被告はそのような代物弁済契約や賃借権設定契約につき宇山らの了解はえていなかつたが、そこまでやらないと担保としては弱いという考えから了解をえないで右各仮登記を完了した。
以上の事実が認められ、右認定に反する証人宇山喜七朗の証言及び原告本人尋問の結果は措信しない。原告は訴外会社の被告に対する債務のため本件土地を担保に供することを承諾し、これに基き、宇山らが原告の代理人として、被告に本件土地を担保として提供したものであるが、通常担保に提供することは抵当権設定を意味するものと推定するのが相当であるから、結局原告は被告に対し訴外会社の債務のため物上保証人として本件土地に抵当権を設定する契約をしたものというべきである。
五、以上の認定事実によると、原告は被告との間に本件土地につき前記仮登記の登記原因たる停止条件付代物弁済契約及び賃借権設定契約をしたことはないのであるから、被告は原告のために右各仮登記の抹消登記手続をなすべき義務があるものといわなければならない。
又登記簿上登記原因として原告と被告との間の金銭消費貸借のように表示されている部分にはそごがあるといわなければならないから、被告と訴外フネン産業株式会社との間の消費貸借契約と更正すべきであり、利息、利息支払時期、弁済期及び遅延損害金に関する登記簿上の表示もそのような約定のあつたことを認めるに足る証拠はないのみならず、前示各証拠によると原告は連帯保証人ではなく、物上保証人であつて、右の点についてはなんら約定のなかつたものと認められるから、右各約定の点は削除の更正をすべきものであつて、いずれにしても、原告は被告に対し本件土地につき抵当権設定契約をしたものであるから、被告に対し本件抵当権設定登記の抹消登記手続は求められないものというべきである。
六、よつて、原告の本訴請求は右の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないからこれを棄却。